国土交通委員会(2019年5月23日)

三浦信祐君 公明党の三浦信祐です。
 船舶の海難事故等により海洋汚染損害から被害者を守るために体制整備をすることは極めて重要であります。今回の船舶油濁損害賠償保障法はその体制整備をするために必要な法改正であるとの上で質問をさせていただきます。
 平成三十一年二月に、内閣から、二千一年の燃料油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約の締結について承認を求めるの件及び二千七年の難破物の除去に関するナイロビ国際条約の締結について承認を求めるの件が提出をされていると承知をいたしております。
 重なりますけれども、これら二条約に日本はなぜこれまで締結をしてこなかったのか、その理由について伺いたいと思います。そして、今般締結を目指すことになったのはどのような目的からでしょうか。

政府参考人(水嶋智君)  お答えを申し上げます。
 我が国は二〇〇四年に油賠法を改正いたしまして、一定の外航船舶に対して保険加入を義務付けるなど、事実上、両条約の内容の一部を実施してまいりましたところでございます。
 一方で、両条約を国内法制化するためには、内航船舶にも保険加入を義務付ける必要がございましたが、当時は内航船舶の保険加入率は七割に満たず、中小企業が大半を占める内航事業者に大きな経済的影響をもたらす可能性があると考えられたところでございます。また、条約の締約国数が少ない段階では、裁判判決の相互承認などの条約締結のメリットが内航事業者への影響を必ずしも上回るとは言えないと思われましたことから、両条約の締結を見送ってきたところでございます。
 しかしながら、近年、船舶所有者の保険契約違反を理由に保険金が支払われず、結果として被害者に対する賠償がなされない事例が発生してきておりまして、被害者保護のために更なる対応が求められる状況となってきております。
 本法案により両条約を国内法制化することで、被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を直接請求することなどが可能となりまして、被害者の保護が図られることとなります。
 また、現在におきましては内航船舶の保険加入率は九割以上まで高まっておりまして、現時点での保険加入義務付けによる経済的影響は限定的と考えられます。内航事業者からも条約への加入と国内法制化についての御理解を得られましたことから、今般、国会にお諮りすることとなった次第でございます。

三浦信祐君 事業者の声もしっかり聞いていただきながら現状に合わせて対応していただいたということで理解をしました。
 今の今も日本の領海内では多数の船舶が航行している中、万が一に対応するための被害者保護を主たる目的としている条約と、これに対応する国内法整備である本法律案については早急に整えた上で社会に実装する体制を確立することが必要であります。二条約の締結、加入には、IMOに寄託した日より三か月で効力が生ずると承知をいたしております。
 これに関連して、政省令の整備の内容、またスケジュール、手続はどのように進めていかれる予定でしょうか。

政府参考人(水嶋智君)  お答え申し上げます。
 三浦委員御指摘のとおり、燃料油汚染損害の民事責任条約及び難破物除去ナイロビ条約でございますが、いずれも我が国が条約の加入書を国際海事機関、IMOに寄託した日から三か月後に我が国に効力が発生することとなります。また、この法案は両条約の国内法制化を図るものでございますことから、改正法の施行日につきましては、両条約が我が国に効力を生ずる日としておるところでございます。
 この法の施行日以降、両条約の対象である船舶は国土交通大臣が交付する保険加入を証明する証明書の船舶への備置きなどが必要となってまいりますが、この法案を今国会でお認めいただきましたならば、おおむね年度内を目途に施行することを目標に証明書の交付手続などを定めた政省令の整備を行ってまいりたいと考えておるところでございます。
 また、円滑に法の施行を行うために配慮しなければいけない事柄もあると考えておるところでございまして、法施行日の直前に証明書の交付申請が集中するといったようなことで交付手続に混乱が生じないよう、あらかじめ十分な猶予を持って船舶所有者へ証明書の交付ができるように措置をしたいと考えておるところでございます。
 こういった円滑な証明書交付事務を行うため、必要な人員の確保等にも努めてまいりたいと考えておるところでございまして、いずれにいたしましても、本法案の円滑な施行に向けてしっかりと準備をしてまいりたいと考えておるところでございます。

三浦信祐君 是非、業界の皆さんとよくコミュニケーションを取っていただいて、また準備もしていただき、円滑に進めていただければというふうに思います。
 日本近海で生じた事故二例、すなわち、先ほどもありましたけれども、青森県のアンファン八号の座礁、燃料油汚染の保険金の不払、そして兵庫県でのネプチューン号座礁事故での保険不払、この事実から得られた教訓というのは、被害者への確実な賠償の実施であることが一つであります。この事故では、いずれも県が負担して対応していたというのが事実であります。県民の税金がそういう形で使われるというのは正直不本意な部分もあると思います。実効性を担保できる再発防止策が必要であります。
 事業者は、第一義に、保険に加入をして、保険が支払われる条件での経営、運営をすることが何よりも基本だと考えます。その上で、まず、日本船籍が責任限度額以上の保険加入というのがこの法律の実効性を担保する上でも必要であります。一〇〇%を達成するために具体的に取り組んでいただきたいと考えますけれども、いかがでしょうか。

政府参考人(水嶋智君)  お答えを申し上げます。
 三浦委員御指摘のとおり、保険の加入義務に関する規定の実効性を確保するということが大変重要であろうというふうに認識をしております。
 油賠法におきましては、保険に加入していることを証する証明書等の備置きを義務付けておりまして、証明書等が備え置かれていなければ我が国の港への入出港などができないというふうに規定をされているところでございます。
 この証明書につきましては、国土交通大臣による船舶への立入検査により確認が可能となっておりまして、違反が確認されれば是正措置命令や航行停止命令の発出が可能となっております。こうした措置は、今般の改正により新たに保険加入が義務付けられる内航船舶なども対象とすることとしております。
 なお、日本籍船舶につきましては、国土交通省が証明書の交付を行うことになりますので、証明書交付の記録からも我が国として保険加入状況の確認を容易に行うことが可能になると考えておるところでございます。
 こうした枠組みによりまして、保険加入の義務付けの実効性を確保してまいりたいと考えております。

三浦信祐君 これまでその証明をもらうという段取りを取ったことがないというケースもあると思いますので、是非丁寧にアドバイスもしていただければと思います。
 若干繰り返しになりますけれども、今般のこの燃料油の条約では、締約国において保障契約が有効であることの証明書を発給すること、この証明書の船舶内への備置きなどが規定をされております。
 今御答弁いただきましたけれども、この発給については、本法律案では第四十四条において、日本国籍を有している場合は、国土交通大臣が書面、保障契約証明書を交付することにしてあります。外国籍では、締約国当局がその権利を持っているような当局が発給したもの、これがそれに該当すると承知をいたしております。
 保障契約証明書について、備置きがない場合には航海への従事が禁止されるなど、重大な結果を招くこととしてあります。これは極めて重要なことだと思います。
 その上で、世界的に、保障契約証明は書面から電子化への移行が進んでおります。日本も、今後この電子化の流れに対してどのように対処をしていくのでしょうか。これは早急に、具体的に国交省としても電子化を進めるなど、今後、業界の皆さんにとっても必要な投資であると御理解もいただきながら、この証明書をすることによって、実はいろんな通報の仕方も体制としては円滑化が進まれるんではないか、確たる証明もその電子化によって円滑に進むのではないかなというふうに、私も考えております。これに対しての対応、いかがでしょうか。

政府参考人(水嶋智君)  お答えを申し上げます。
 委員御指摘の海事分野における電子証書の導入につきましては、近年、船上における通信環境やIT機器が高度化してきていることなどを踏まえまして、海運事業者の手続や負担を抜本的に改善するために国際的な議論が進められているところでございます。
 国際海事機関、IMOにおきましては、二〇一四年に電子証書使用に関するガイドラインというものが策定されておりまして、実際に一部の国では電子証書の導入が進められているところでございます。
 国土交通省におきましても、昨年六月に新たな船舶検査・測度制度の構築に向けた検討会というものを設置をいたしまして、電子証書の導入に向けて不正アクセスや改ざんを防止する仕組みなどの技術的な課題を整理しているところでございます。円滑な海上物流の促進のためにも、可能な限り早期に電子証書を我が国においても導入できるよう検討を進めてまいりたいと考えておるところでございます。

三浦信祐君 是非応援させていただきたいと思います。
 次に、被害に遭われた者が保険会社に対して直接請求を可能とし、契約違反を理由として請求拒否ができないと本法案では規定をいたしております。
 保険会社に対して、具体的にどのようにして請求ができるのか。経験がない方がこれはいいことではありますけれども、万が一のときに被害者が請求を行わなければいけない事案が生じた場合に、国交省としては、民民の関係だと言っておきながら、でもしっかりと支援する必要が私はあると思います。どのように支援をしていくのでしょうか。

政府参考人(水嶋智君)  お答えを申し上げます。
 この法案におきましては、委員御指摘のとおり、燃料油による汚染損害や難破物除去等の費用による損害が発生した場合、被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を直接請求することが可能とするなど、被害者保護の充実を図ることとしておるところでございます。
 委員御指摘のとおり、被害者の方々にこの新たな制度を活用していただくためには、制度の周知がまず重要であろうというふうに考えておりまして、今回の制度改正を行うに当たりましては、関係業界への説明会の開催のほか、ホームページによる情報の発信あるいはプレスへの広報等を積極的に行ってきたところでございます。
 また、実際の過去の事例を鑑みますと、地方自治体が被害者となるケース、あるいは地方自治体が漁業者等の相談を受けて損害の請求に係る対応を行うケースも多いことから、特に沿岸部の地方自治体の皆様に対して本法案の制度の周知などを図ってまいりたいというふうに考えております。
 また、私ども国土交通省といたしましても、制度の知見がない被害者の方が制度の知見がないがゆえに損害の請求が滞るといったようなことがないよう、積極的な情報提供や適切な助言に努めてまいりたいと考えておるところでございます。

三浦信祐君 是非、小さな自治体の場合に、海洋国家としてだけではなくて、その地域の経済がそのまま海と関連をしていると、これによって大打撃を受けるケースもありますので、ないことは本当に願いたいところでありますけれども、事前に想定できることは全て整えておいて、スピード感を持ってそのときには対応できるように体制整備をお願いしたいと思います。
 船舶所有者の責務の強化がなければ、保険料の上昇であったり、そもそもリスクヘッジだということで保険会社が保険締結をしない、うちの社としてはやりませんよということで、場合によってはたらい回しをしてしまうということも生じないとは限りません。
 船舶所有者への指導は国交省として行うというふうになっていると思います。これらの船舶所有者に対してのアドバイス機能、また実効性担保へのどういう取組をされるのかということを御答弁いただければと思います。

政府参考人(水嶋智君)  お答えを申し上げます。
 実効性の担保、周知についてでございますけれども、まず外国船舶につきましては、現行の油賠法におきまして、総トン数百トン以上の船舶に対して既に保険加入の義務付けを行ってきているところでございます。この場合、保険加入義務の実効性を確保するため、保険加入に係る証明書等の備置きを義務付け、証明書等が備え置かれていなければ我が国の港への入出港等ができないというふうになっておるということでございます。あわせて、国土交通大臣による報告徴収及び立入検査、義務違反に対する是正措置命令について規定をしておりまして、これらの措置により実効性をしっかりと確保してきたところでございます。
 一方、内航船舶につきましては、我が国が条約に加入するためには総トン数三百トン以上の船舶に対して保険加入の義務付けを行うことが必要でありますことから、内航海運事業者の皆さんと調整を行ってきたところでございます。
 その過程におきまして、内航海運業界の皆様からも国内法制化の必要性について御理解をいただいてきたところであり、新たな制度への対応のため、きっちりと保険に加入していただけることを期待しているところでございます。
 国土交通省といたしましては、関係者へ本法律案の内容が十分に周知されるよう、今後も引き続き内航業界等の関係団体に対して丁寧に説明を行ってまいる所存でございます。

三浦信祐君 一つ飛ばさせていただきます。
 難破物の除去は一義的には船主の責任で行うことではありますけれども、自治体として、迅速な撤去がなされないことや作業が難航することも想定しなければなりません。難破物除去条約上は、除去を円滑にするための措置として、難破物除去の合理的な期限を定めることや除去の条件を定めることができることなどが定められております。
 我が国では、円滑な除去が行われるようどのように取り組んでいくのでしょうか。

政府参考人(水嶋智君)  お答えを申し上げます。
 難破物除去ナイロビ条約におきましては、各締約国内における除去のための制度につきましては各締約国に任されておるということでございまして、各締約国において個別の除去の必要性などを判断することとされておるところでございます。
 では、我が国でございますけれども、我が国では、海洋汚染防止法や港湾法などの法律に基づきまして、各法律の保護法益に鑑みて除去が必要となる難破物に対しまして、その必要性を適切に判断し得る主体が除去命令を発出するという仕組みになっておるということでございます。
 例えば、海洋汚染防止法によりますと、海洋環境の保護の観点から海上保安庁長官が、また港湾法では、港湾の適切な管理の観点から港湾管理者が、それぞれ命令発出の責任の主体となっているということでございます。
 また、こうした除去命令に対して船舶所有者が応じない場合には、行政代執行により命令発出主体が船舶所有者に代わって難破物の除去を行うことが可能となっておるということでございます。
 このように、我が国におきましては、各法律に基づきまして、除去が必要となる場合において適切に難破物の除去を図っていくという制度が取られているものと考えておるところでございます。

三浦信祐君 関連しまして、本法案では総トン数三百トン以上の内航、外航船舶等にも難破物除去等の費用に係る損害について義務付けをしているところであります。一方で、総トン数三百トン未満の船舶が座礁、放置していた場合、対象ではないことにより、対応根拠がないためにこの法案から見ると対策が取れないというのが理解をできます。
 現状の認識とこれまでの対応についてお伺いさせていただくとともに、今後どのように、例えばプレジャーボートのようなもの、各地域において、自動車とは違いまして、放置されているのかそれとも保管をされているのか分からないようなものというものも時々あると伺っております。これらについての対応、対策はどのようにしていかれるのでしょうか。

政府参考人(水嶋智君)  お答えを申し上げます。
 我が国は、二〇〇四年に油賠法を改正いたしまして、外航船舶であれば総トン数百トン以上の船舶に対して保険加入の義務付けを行うという措置を実施してきたところでございます。その二〇〇四年以前は放置される難破物が毎年二、三件程度発生しておったところでございますけれども、この油賠法の改正以降は毎年一件以下程度にまで減少しておりまして、これまでの対策は一定の効果があったものと認識をしております。
 また、今般の法改正では、先ほど来御議論させていただいておりますとおり、総トン数三百トン以上の内航船に対しても保険義務付け範囲を拡大するということでございまして、難破物の放置事案の発生は相当程度抑制可能と考えております。
 また、総トン数三百トン未満の内航船舶につきましてでございますが、今般、このサイズの船につきましては条約の対象範囲を超えた義務付けは課さないこととしておりますけれども、こうした船舶の事故が万一発生したといたしましても、比較的船が小さいことから損害の規模も小さくなるものと想定をされ、また、内航船舶であれば所有者の特定も比較的容易であると思われますことから、港湾法や海洋汚染防止法などの法令の規定に基づき港湾管理者や国などが撤去命令を発出した場合には適切な対応が行われることが期待されるのではないかというふうに考えております。
 また、更にもっと小さなプレジャーボート等の小型船舶でございますけれども、こういったプレジャーボート等の小型船舶につきましては、総トン数三百トン未満でございますことから、難破物除去ナイロビ条約における保険加入の義務付け対象にはなっておりませんので、本法案においても保険加入を義務付けていないところでございます。
 その一方で、プレジャーボートなどの放置艇問題に関しましては、これまでより問題になってきておるところでございまして、関係機関でプレジャーボートの適正管理に関する推進計画というものを二〇一三年に策定しておりまして、現在、この計画に基づきまして関係省庁で総合的な対策を推進しているところでございます。
 こうした計画も踏まえまして、所有者に対する海岸法等に基づく監督処分や管理者が撤去した場合における費用の補助等によりまして、関係機関が連携協力して対応することにより放置艇対策を推進しているところでございます。
 また、プレジャーボートの主たる材質が繊維強化プラスチックでございますところ、その廃棄処理の困難性により結果として不法投棄を招く要因ともなっておったと指摘をされているところでございます。このため、私どもとしては、業界団体と連携をいたしまして、廃船処理技術を確立するなど、適正なリサイクルに基づいた観点からも放置艇対策の取組を推進しているところでございます。

三浦信祐君 地元の住民の方にとってみれば、河川の河口に近いところのプレジャーボートなんかが放置をされているということは、景観の問題もあったり、またその後の犯罪の温床になったりするという不安もありますので、これに関連してではありますけれども、是非その推進をしていただきたいと思います。
 最後に、今後、日本において、SOx規制の対応のためにLNG船の増加、導入促進を図っていく必要があります。そのインフラとしてLNGバンカリングの体制整備を強く推進すべきだと私たちは公明党としても訴えをさせていただいており、横浜で、先ほどもありましたけれども、このバンカリング船の入口が徐々に整備をされていると承知をしております。国としても、今後も大臣の下でしっかり進めていただきたいというふうに思います。
 その上で、今般の法案では、定義として燃料油等とされております。LNGへの解釈はどのようになるのでしょうか。油との定義は狭い概念であり、定義付けの整理はどのようにするのでしょうか。細かい点ではありますけれども、今後の発展のためにここで整理をしておいていただきたいと思います。

政府参考人(水嶋智君)  お答えを申し上げます。
 燃料油汚染損害の民事責任条約上、燃料油は一定の油が対象とされておりまして、油ではない液化天然ガス、LNGはこの条約の対象には含まれておりません。
 同様に、この法案におけます燃料油等も一定の油を対象としておりますので、油ではないLNGは含まれていないということでございます。

三浦信祐君 そういう面においては、環境に優しいだけではなくて、海洋汚染のリスクも低いということがこのLNG船については言えるかなというふうに思います。
 今後とも、国民生活の中で事故がないことを祈るだけではなくて、万が一のときにも対応できるように、この法律が成立した後、国土交通省としてもしっかりと準備をしていただいて、国民の生命と財産を守るという観点からも、是非準備怠りなくやっていただきたいと思います。
 以上で終わります。