本会議(2018年6月4日)

働き方改革の意義

三浦信祐君 公明党の三浦信祐です。
私は、公明党を代表し、ただいま議題となりました働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案について質問いたします。
我が国は、今、少子高齢化による急激な人口減少、これに伴う生産年齢人口、労働人口の減少が進んでいます。持続可能な日本の未来をつくるためには、働き過ぎの社会から、健康を確保し、生産性向上による新しい働き方への対策が急務であり、特に若者世代が、将来に希望を持ち、人生設計ができる労働環境、賃金体系への変革が待ったなしの状況です。安倍総理は、一億総活躍社会、人生百年時代構想を推進し、日本が直面する課題に取り組まれております。そして、安倍内閣は、今国会を働き方改革国会として、日本の労働生産性向上に必要不可欠な働き方の大改革へ取り組むべく、本法案を国会へ提出されました。
そこで、働き方改革について、今取組を進めるべき意義と目的、また目指すべき社会について、安倍総理に答弁を求めます。

時間外労働の上限規制

次に、時間外労働の上限規制について伺います。
現行制度では、労使協定書、いわゆる三六協定の締結により、実質、上限なく時間外労働が可能であるのに対し、本法案では、時間外労働の上限を月四十五時間、年三百六十時間を原則とし、臨時的な特別な事情の場合でも、年七百二十時間、単月百時間未満、複数月で平均八十時間と、明確に上限を設けております。労使が一致し、罰則付き時間外労働上限規制を創設することは、一九四七年の労働基準法制定以来の大改革であり、未来をつくる歴史的なことです。
労働生産性が高く、時間外労働がなく、定時で就業を終えて、適切な収入が得られていることが本来あるべき健全な労働の在り方です。その上で、時間外労働を是認し、罰則規定を定める以上、残業時間の上限設定水準が妥当でなければなりません。

労働時間の状況把握

労働環境の変革をもたらす時間外労働上限規制の設定の根拠、妥当性について、加藤大臣に伺います。
労働者の健康あって、社会や企業の健康があります。そのためにも、労働者の健康確保措置の実効性を確保しなければなりません。公明党の主張により、本法案に、労働時間の状況を省令によって把握する義務が明記されました。具体的には、医師による面接指導の実施とともに、現認や記録を基礎として把握するとしていますが、省令で定める方法が実効性のあるものでなければなりません。

勤務間インターバル制度の導入

労働時間の状況把握を確実に実施していくための具体的取組を加藤大臣に伺います。
本法案では、前日の終業時刻と翌日の就業時刻との間に一定時間の休息を確保する勤務間インターバル制度の導入について、事業主に努力義務を課すと規定しています。制度普及促進のためには、事業主が責務を実行できる環境整備や、特に中小企業が制度を導入しやすくなる支援が必要であると考えますが、加藤大臣に答弁を求めます。

高度プロフェッショナル制度の導入

時間ではなく、成果で評価される働き方を望む方々のニーズに応えるため、職務の範囲が明確で高収入労働者が高度の専門知識を必要とする業務に従事する場合に、年間百四日の休日を確実に取得させる等の健康確保措置を講じること、本人の同意があり、労使委員会の決議を要件として、労働時間、休日、深夜の割増し賃金の規定を適用除外とする高度プロフェッショナル制度が本法案に盛り込んであります。対象業務とその対象者が規定されていますが、対象の解釈やその範囲が不用意に拡大していくのではないかなど、国民に心配が広がっています。
これらを踏まえ、対象業務、対象労働者の明確化と健康確保措置がどのように実施されていくのか、また、不適切に適用させないために指導監督はどのように行っていくのか、国民の不安を払拭するよう、安倍総理に明確な説明を求めます。

中小企業・小規模事業者の働き方改革

次に、中小企業・小規模事業者の働き方改革の実現について伺います。
日本の企業の九九・七%は中小企業・小規模事業者であり、雇用の全ての七割を担っています。中小企業・小規模事業者の元気がそのまま日本の活力になると言えます。公明党は、約三千人の全議員が百万人訪問・調査運動を行っており、全国各地の中小企業を訪ね、中小企業支援メニューを平易にまとめた中小企業ハンドブックをお届けしながら、課題や要望について現場の声を伺っています。その中で、国や地方自治体の支援メニューを知らなかったとの声が多数寄せられています。
経営支援に関する的確な情報を得ることや、各種機関の窓口、専門家へ相談する時間や機会をなかなか取れないのが中小企業経営者の方々が抱える課題の一部です。また、中小企業では、法令に関する知見が十分ではない、労務管理体制が整備されているとは言い難い場合も多いと思います。
事業者の方々に対し、労働時間上限規制の理解促進と働き方改革の確実な実施をしていただくためにどのように取り組むのでしょうか。加藤大臣に答弁を求めます。
中小企業に適用されている月六十時間超の時間外労働に対する割増し賃金率の猶予措置については、二〇二三年四月一日に廃止されることとなっており、大企業と同様、五〇%となります。この間に、経営体力の増加、人手不足の解消、生産性向上なくして猶予措置廃止後に大きなダメージや実現性に不安が生じます。このような事態は避けなければなりません。中小企業での働き方改革は、商慣行、下請取引の改善が不可欠であり、地域の実情に即した対応なしに実現できません。
納期設定、価格設定等について不当な取引環境とならないよう、政府として強力に環境整備すべきだと考えますが、安倍総理、いかがでしょうか。

労働者の公正な待遇の確保

日本では、働き方の多様化が進み、あらゆる雇用形態が存在します。その中で、全労働者のうち、非正規雇用労働者が約四割を占めています。しかし、非正規労働者の待遇は正社員の時給換算賃金水準の約六割にとどまり、欧州の約八割には及ばず、非正規と正社員との格差が著しい状況です。業務内容が同一でも待遇差があるのが現状であり、不合理な待遇差の解消は社会的課題です。同一労働同一賃金の実現が国民生活の安心、安定につながると考えます。本法案では、同一企業内において有期雇用でも均等待遇、均衡待遇の規定の明確化が図られるとしています。
本法改正によって非正規労働者がどのように処遇改善されるのか、また、雇用主が取り組まなければならないことは何かを国民に対して明確に示すべきです。安倍総理の説明を求めます。
本法案は、国民生活に直結し、将来の日本を形作る重要法案です。国会審議を通じ、政府による丁寧な説明、質疑を求めるとともに、国民の理解が進み、働き方改革が実行できることを願い、私の質問を終わります。
ありがとうございました。(拍手)
〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

内閣総理大臣(安倍晋三君)  三浦信祐議員にお答えいたします。
働き方改革の意義等についてお尋ねがありました。
働き方は、日本の企業文化そのものであり、日本人のライフスタイルに根付いたものです。長時間労働についても、その上に様々な商慣行や労働慣行ができ上がっています。それゆえ、多くの人が働き方改革を進めていくことは、ワーク・ライフ・バランスにとっても生産性にとっても良いと思いながら、実現できなかったものです。もはや先送りは許されません。
人生百年時代においては、新卒で皆が一斉に会社に入り、その会社一社で勤め上げて、定年で一斉に退職して老後の生活を送るという単線型の人生は、時代に適合しなくなっています。それを一斉にみんなで送るということではなく、一人一人のライフスタイルに応じたキャリア選択ができるようになるべきと考えます。
私の目指す働き方改革は、誰もが、幾つになっても、学び直しをしながら新たなチャレンジをする選択肢を確保できるようにすることです。日本的雇用慣行には人を大切にするという優れた点があり、これを大切にしながら、時代の変化を踏まえ、働く人々の視点に立って、一人一人の事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現していきます。
高度プロフェッショナル制度についてお尋ねがありました。
この制度の対象者となるには、第一に、年間平均給与額の三倍を相当程度上回る水準、現状では千七十五万円以上の方であること、第二に、専門性があり、通常の労働者と異なり、雇用契約の中で職務の記述が限定されていること、いわゆるジョブディスクリプションがあること、第三に、何より本人が制度を理解して個々に書面等により同意していることが必要です。加えて、対象業務は、企業、市場等の高度な分析業務など、高度な専門的知識等を必要とし、従事した時間と成果の関連性が高くない業務としています。
これらの要件は本法案に規定されており、法改正することなく要件を変更することは不可能となっています。
また、高度プロフェッショナル制度においても長時間労働を防止し健康を確保することは重要であり、在社時間等の把握、一定以上の休日の確保などを使用者に義務付けることとしています。
仮にこれらの要件に違反すれば、制度の適用は認められないこととなります。また、法定労働時間に違反していれば、罰則の対象となります。制度を導入した事業場に対する指導監督に万全を期してまいります。
働き方改革に伴う取引環境の整備についてお尋ねがありました。
働き方改革を進めるに当たり、現場の中小企業・小規模事業者からは、大企業の働き方改革の影響によって短納期発注などのしわ寄せ、生産性向上やコストダウンといった努力の大企業や親事業者による吸い上げに対する懸念や不安の声も聞こえており、取引条件の改善が重要であると考えます。
大企業と中小企業の間で公正な取引が行われるよう、関係法令の厳格な運用に加え、主要産業界に自主行動計画の策定とその実行を要請し、今後は、策定業種の拡大やフォローアップを行うとともに、下請Gメンの体制を増強し、継続的に取引実態の把握を行い、商慣行の見直しや取引条件の適正化を一層強力に推進してまいります。
二〇二三年四月の割増し賃金率の猶予措置の廃止後も、中小企業が働き方改革に前向きに取り組むことができるよう、ものづくり・商業・サービス補助金やIT導入補助金、固定資産税の減免措置などの生産性の向上に向けた取組と取引適正化の取組を車の両輪として進めてまいります。
非正規雇用労働者の処遇改善についてお尋ねがありました。
まず、正規、非正規という雇用形態によって不合理な待遇差がある場合には、その是正を求める労働者が裁判で争えることを保障する規定を整備します。
また、事業主に説明義務を課すことにより、裁判や労使の話合いにおいて待遇差の是正を求める労働者が不利にならないよう、企業側しか持っていない情報を知ることができ、労働者が待遇の異なる理由の説明を確実に受けられるようにします。
さらに、実際に裁判に訴えるには経済的負担を伴うため、裁判外の紛争解決手段、いわゆる行政ADRを整備し、労働者が身近に無料で利用できるようにします。
こうした措置を講じることで、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の理由のない待遇差を埋め、多様な働き方を自由に選択できる社会を実現してまいります。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
〔国務大臣加藤勝信君登壇、拍手〕

国務大臣(加藤勝信君)  三浦信祐議員より、時間外労働の上限規制についてまずお尋ねがありました。
今回、史上初めて、三六協定でも超えてはならない、罰則付きの時間外労働の限度を設けます。これは、戦後の労働基準法制定以来七十年ぶりの大改革になります。
時間外労働の上限規制は、原則として月四十五時間かつ年三百六十時間までとします。
その上で、臨時的な特別の事情がある場合に該当すると労使が合意しても、上限は年七百二十時間であり、その範囲内において、複数月の平均では休日労働を含んで八十時間以内、単月では休日労働を含んで百時間未満、原則としての延長時間を超えることができる回数は一年について六か月以内に限るとしており、これらに違反する場合は罰則を科すこととしております。
これは、実効性があり、かつ、ぎりぎり実現可能なものとして労使が合意した内容であり、それに沿って法定するものであります。
また、今回の労使合意は、上限水準までの協定を安易に締結することを認める趣旨ではありません。このため、法案では、可能な限り労働時間の延長を短くするため、労働基準法に根拠規定を設け、新たに定める指針に関して、必要な助言、指導を行うこととし、長時間労働の削減に向けた労使の取組を促してまいります。
労働時間の状況の把握についてお尋ねがありました。
働く方の労働時間の状況を適切に把握することで、健康確保措置がしっかりと行われることが必要であります。
この点について、御党からの申入れなどを踏まえ、労働安全衛生法を改正し、事業者に対し、労働者の労働時間の状況を厚生労働省令で定める方法により把握することを法律によって義務付けることとしました。この厚生労働省令で定める方法については、タイムカード、パソコンの使用時間等の客観的な記録によることなどを定める方向で検討してまいります。
これにより、医師の面接指導及びその意見に基づいて事業者が行った措置が適切に実施されるようにすることを通じて、労働者の健康確保を図ってまいります。
勤務間インターバルについてお尋ねがありました。
勤務間インターバルは、働く方の生活時間や睡眠時間を確保し、健康な生活を送るために重要であります。このため、本法案では、事業主に対して、勤務間インターバル制度の導入を努力義務として課し、制度導入についての環境整備を進めていくこととしております。
さらに、平成二十九年度より、勤務間インターバルを導入する中小企業に対する助成金を創設しており、就業規則の作成、変更や労務管理用機器の導入などを行った中小企業に対して、その費用の一部を助成するとともに、好事例の周知にも努めております。
今回の春闘においても、勤務間インターバル制度を新たに導入する企業が増えており、そうした労使の取組を更に促進してまいります。
中小企業・小規模事業者への対応についてお尋ねがありました。
一人一人の事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現するため、我が国の雇用の七割を担う中小企業・小規模事業者の皆様にも、長時間労働の是正を始めとした働き方改革に取り組んでいただくことが必要であります。
中小企業・小規模事業者においては、法令に関する知識や労務管理体制が必ずしも十分ではない場合も多いことから、施行までの十分な準備期間を確保するため、中小企業に対する時間外労働の上限規制の施行期日を、法案要綱よりも一年延期し、平成三十二年四月一日としております。
その上で、今回の法改正の趣旨、内容の理解の促進のため、全国に設置する働き方改革推進センターを中心に、好事例や支援策を提示するなどの対応を行ってまいります。
また、今年度より、全ての労働基準監督署に特別チームを新たに編成しており、専門の労働時間相談・支援班がきめ細かな相談支援を行っていくこととしております。(拍手)
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