神奈川県書店商業組合理事長 筒井正博 × 公明党国際局次長・青年局次長 三浦のぶひろ
子どもたちに読書の機会をつくる「知的振興券」
三浦 本日はよろしくお願い申し上げます。
先日、神奈川新聞に掲載された記事を拝見いたしました。
書店商業組合として子どもの読書を推進するための取り組みを紹介した記事でしたね。
筒井 元々は神奈川県の読書推進委員会というものを作りまして、書店を中心にマスコミ、出版社、書店を中心として活動してきました。特に神奈川県推進図書で神奈川新聞さんにはお世話になっているんです。言わば夏休み課題図書の神奈川県版ですね。
三浦 神奈川県独自の取り組みですね。恥ずかしい話ですが、子どものころは夏休みの宿題で読書感想文を書くのが本当に嫌いだったんですよ(笑)。
筒井 「宿題」となるとそう感じていた人は多いですよね。でも、本を普及したいということであれば、本当はそうやって強制するのは良くないんですよ。自由に読んでください、という方が楽しんで読めますよね。
課題として感想を書かなくてはならないから読む、というものそれはそれで価値があることですが、本を読んだら感想を書かなくてはいけないというプレッシャーで「読まなければいけない」と思うよりも、楽しいから本を読むというほうがいいような気がしますね。
三浦 私もそう感じます。私には9歳の娘がいるのですが、書店で娘に「どれが読みたいか好きな本を選んでごらん」と言ってみると、推薦図書のなかでも1〜2年生向けを選んでみたり、逆に5〜6年生向けを選んできたりします。本の好みは人それぞれですから、本人が楽しんで読めるのであれば、それが一番いいと思っています。
もちろん、課題で読書感想文を書くことも大切な勉強になるとは思いますが(笑)。
また、本にはケチらないようにしているので「好きなだけ買っていい」と言うようにしているんです。
筒井 それは大事なことですね。子どもたちが本に親しんでいける環境を考えるのも教育のひとつです。
地域振興、地方創生が重要と言われる中で、教育はとても大事な要素だと思っています。例えば、今は貧困が原因で嘆かわしい事件が起こることがあります。そういった報道に触れることで、逆に家庭の大切さ、教育の大切さを教えられることがありますよね。
そんな中で本は教育にとって大切な役割を持っているな、と思います。
いい本を与える、いい本を読む機会を親が作るということがどれだけ心の教育にとって大切か、痛切に感じます。
三浦 その通りですね。
筒井 そんな思いから私は子どもだけが使える図書カードを地域限定で贈ろうという運動を政治家の皆さんにもご協力をいただいて実現をしたいと思っているんです。
なかなか簡単にはいかないですが、親がお金ではなくて、子ども達だけが使える、子どもの本が買えるという施策を実現していただきたいんです。
三浦 すばらしい話ですね。子どもたちが使える言わば「知的振興券」のようなものがあれば、子どもだけではなく大人も一緒に書店に行く機会が増えます。子どもも大人も活字文化に触れる機会が多くなると思います。
また、先日、横浜市の並木小学校で読み聞かせをしている場面を視察させていただいたのですが、その取り組みは、それぞれの教室に本の題名が掲げられていて、先生が本を読んでいきます。
子ども達は読んでみたい本を読み聞かせてくれる教室に自由に行って、物語を楽しむんです。そして、まさに選挙のように良かった本を投票していくんです。
子ども達はもちろん、本の内容に興味をもって聞きにいきますが、先生もどんな本を読めば子ども達が集まるか、と真剣に取り組んでいます。それを見て、これは情操教育にぴったりだと思いました。
筒井 本当に、その通りですね。電子書籍なども大きくメディアに取り上げられますが、やはり活字文化の大切さを感じます。電子であれ、紙であれ何で読んでも内容は同じなのですが、やはりそういった話をうかがうと紙の本で読んでほしいな、と感じますね。
被災地で希望をつないだ「書店」の文化
三浦 書店には大型書店も小さな書店もありますが、やはり「町の本屋さん」は地域の文化や、義務ではない部分の「情操的な教育」の担い手という役割も大きいと思います。
筒井 町の書店さんが減少しているという寂しい現状はあるのですが、今は神奈川県でも2つの自治体に書店がないという状況です。そのうちの一つが箱根町です。私は小田原ですが、箱根にはかつて3件の書店がありました。観光で訪れる方は非常に多い地域なのですが、現在は書店がない状況です。
ちょっと出かけた行き帰りに知り合いの親父さんの本屋さんで雑誌や書籍を買う。そこでちょっとした会話をする、という触れ合いがあるのがいいんです。そういうところを大切にしてきたいと、私たちの組合はそう思っています。残念ながら、経済的に非常に厳しくて商売が成り立っていない状況になっているというのが現状です。かつては我々の組合も600件ほどありましたが、現在は200件ほどです。
三浦 文化の担い手といっても商売ですから、やはり儲けていただかなければならないですからね。
これまで、書店の担ってきた役割は大きかったと思います。残しておきたい文化だと思います。
そういう意味ではこの業界だけに任せるのではなくて、むしろ自治体も、また住民や商店街も加えて必要性を訴えていかなくてはならないと思います。
筒井 そうですね。飲み物や食べ物、電気などは大変に重要なインフラです。それ以外のところで重要なものといえば本、活字文化だと思うんです。
今日はちょうど3月11日で、東日本大震災が起こった日です。当時は輸送がストップする中で私たちも「まず食料が必要だ」「水が必要だ」と思っていたんです。だから一歩下がっていたほうがいいんじゃないか、と思っていました。
ところが、そうではなかった。あの時は当然、本屋さんに本が届かない状況だったわけです。あるいは被災されて本が流されてしまった。本に触れたい人がいても、それがかなわない状況だったわけです。
やがて、被災地にも本が届けられる状況になると、届いた本の入っている箱を開けて、読まれた方々が「辛い気持ちが本で癒された」「本をもっと読みたい」という声をよくうかがいました。
復興においては食料や水が大切なのはもちろんなのですが、やはりそれだけではなかったんだな、と思います。当時、私たちは「何もできないのではないか」と思い、無力感も味わったのですが、ところがそうではなかったのだとつくづく感じます。
三浦 書物が被災地の方々の希望をつないだ側面があるんですね。
また、「紙」の本であったことも大きかったのではないかと思います。電子書籍はタブレットなどを充電をするための電気がなければ読めません。これは言わば「間接的な文化」であると言えます。
しかし、紙の書物というのは「永遠の文化」であると思うんです。もちろん管理の問題もありますが、長く情報を保って、電気がなくても読むことができます。
私は教育に携わっていたので、普段はあまり本を読まない学生たちにもそんな話をしたことがありました。紙の本に印刷された活字は残っていくもの。これ自体がまさに防災になる。次への伝承になる。これが記録であり、情報であり、保存して歴史になります。私はアナログな人間なので、どちらかというと紙の本を読むのですが、その話を思いのまま伝えると、学生達は本を買うようになりました。
筒井 今は大学生が本を読まなくなってきているというのが、とても問題になっていますね。
これも紙の本の話ですが被災地の石巻に日本製紙の工場があります。その工場の復興への奮闘を描いた『紙つなげ!』という本が出版されています。
私たちの業界の多くの人が読んだのですが、紙がどれほど大事で、そこに活字を載せて、一冊の本にしていくかなど、私たちにはなかなかわからないことが書かれていました。
紙はどれだけ大切なものか、そしてそれを本にして子ども達に届けなければいけない、という思いがすごく伝わったんです。まさに心のバイブルになるような、「出版というのは、こういうものなんだ」という力強さをもらいました。
もう一つは被災地のある書店さんがたった1冊だけ手元に届いた「少年ジャンプ」を子ども達に皆で読んでもらいたい、と提供したんです。それを子どもたちがその本屋さんに来て、回し読みをしていた。最後はジャンプが倍くらいに膨れるまでみんなで大切に読んだ。それが「伝説の少年ジャンプ」と言われているんです。被災地の子ども達はその本屋さんでジャンプを読んで辛い気持ちをいっときでも忘れて楽しんだ。
集英社にはその「伝説の少年ジャンプ」が飾ってありました。
それを通してやっぱり私たちはこの仕事をしていて良かったんだ、と思うようになりました。
三浦 やはり、町の中に本屋さんがあるというのは文化の発信という意味で重要ですね。紙の本が持つ魅力を伝えることで、人々の希望を守ることがあると感じるエピソードですね。