対談 日本の進むべき未来①

〜平和と教育と科学技術を語る〜

三浦が奉職していた防衛大学校で、2006年から5年8カ月にわたり、学校長を務めた五百旗頭眞氏。

久しぶりの再会を果たしたこの日、教育・人材育成の要(よう)諦(てい)から、生命と平和を守り抜く使命、さらに科学技術の重要性について、熱のこもる議論が展開された。

五百旗頭眞(いおきべまこと)

1943年兵庫県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科修士課程修了。広島大学政経学部助手、助教授をへて、神戸大学法学部教授。小泉純一郎首相の働きかけで2006年から防衛大学校長に就任、2012年まで務める。現在、熊本県立大学理事長。

勇気ある“改革”の旗振り役として

三浦のぶひろ 五百旗頭先生には、私ども教職員もたいへんお世話になりました。本日はお忙しいところ、誠にありがとうございます。

五百旗頭眞 ごぶさたしています。三浦さんは機械システム工学科で研究をされていたんですね。

五百旗頭眞

三浦 はい。近藤義宏先生のもとでジェットエンジンの材料の研究をしてきました。タービンの素材など、高い温度で使う材料の研究です。

五百旗頭 非常に大事な分野ですね。ジェットエンジンの研究は防大に来て始められたのですか。

三浦 はい。それまでは基礎的な研究を行っていました。先生の学校長時代のご尽力で、防大も文科省の科学研究費補助金(科研費)の助成が受けられるようになり、たいへん感謝しています。それまで防大は、そうした助成事業の対象外に置かれていましたが、先生の時代に申請可能となり、公的研究費が受けられるようになったので、理工系のだれもが喜んでいました。

五百旗頭 ありがたい話ですね。私が学校長に就任して半年ほど経ったころ、それまでの「防衛庁」が「防衛省」に移行するという出来事がありました。
当時の久間章生防衛庁長官が、初代の防衛大臣に就任された際、「これからは独立した省として内実をつくらなければならない。そのために大事なのは教育、研究であり、その土台があって初めて政策官庁としての中身ができる」という趣旨のお話をされました。その場にいた私は、防衛大学校の長として、まるで直接、自分に言われているような気がしました。
その日、横須賀に戻ってすぐに、それまで半年間の経験のなかで感じてきたことをもとに、八項目くらいの改革案をまとめたのです。その一つが先ほどの科研費に象徴される「競争的研究資金への参加」でした。それまで防大は「教育・訓練」を主務としており、「研究任務」は二義的な位置付けでしかなかったために、文科省の下にある競争的研究費の申請ができなかったのです。

三浦 おかげで、われわれ教員も外国に出張させていただく機会が増え、研究のための装置の購入などもできるようになりました。先生には、ほかにも多くの改革をしていただきました。

五百旗頭 防大はもともと理工学専攻からスタートした歴史があります。私が着任したころも、理工系大学院は修士・博士までありましたが、一方の人文社会系は修士まででした。しかし、防衛「省」が政策官庁としての実を築くというのであれば、これでは困ります。たとえば、アメリカのペリー国防長官のように博士号を持っているリーダーは少なくありません。これからは日米戦略対話においても、そのような人と一対一で戦略論を討議できるような人材が必要になってきます。グローバルな安全保障環境に対応できる人材がどの期にも一人か二人は必要になると思い、総合安全保障研究科に博士課程の増設を求めました。この件をはじめ、私の掲げた八つの改革案はその後、ほとんどが実現されたのです。

三浦 ほかにも海外の士官学校との国際交流を、先生は自らの陣頭指揮で大きく進められましたね。

五百旗頭 防大生は将来の自衛隊を率いていく人たちです。「世界の中の日本」という意識を常に忘れてほしくない。自国と自軍のことのみ想って世界を知らない戦前の関東軍(大日本帝国陸軍の総軍の一つ)のような存在になっては困ります。防大生のときから世界の士官学校と交流する必要があると思い、私の在職中には毎年、士官学校との交流を広げるために世界中を駆け回りました。防大では─自衛隊全体がそうだと思いますが─自分が何期かということにこだわる文化がありますから、長期間留学によって留年することは避けたい。ですから、学年を変えることなく海外体験をする前提で、四カ月(つまり、一学期だけが限度)という「1セメスター交流」という制度をつくりました。

三浦のぶひろ

三浦 私も東ティモールから来た留学生の担当教官となりました。国の将来を担って日本にやってきた彼らが、懸命に努力している姿に接するごとに、本当に彼らを大切にしようという気持ちが強まりました。こうした交流を重ねていけば、確実に国と国を超えた信頼を築くことにつながると感じました。ほかにも、先生は全校の学生に月一回、講話をされたり、自ら少人数のゼミを担当されたり、それまでにはなかった新しい伝統を築かれました。じつは、私も先生の講話を講堂の後ろのほうで聞かせていただいたことがあるんです。

五百旗頭 そうでしたか! たしかに教職員の方々も後列のほうにおられましたね。

三浦 防大にグローバルな観点を導入するということに関しては、それまでにも長年、議論されてきたと思うのですが、あれほど力強く実行されたことはあまりなく、学校長自身が毎月、講話をしてくださったことは、私にとって衝撃的なことでした。

五百旗頭 ありがとうございます。そのように受け止めてくださる教員がおられたとは、うれしいかぎりです。

(「未来をつくる、新しい風。」潮出版社 より転載)