第211回国会 参議院 内閣委員会 第8号 令和5年4月13日
新型インフル特措法及び内閣法の改正案について、参考人に対する質疑
三浦信祐君
公明党の三浦信祐です。
今日は、三名の参考人の方に大変貴重な御意見をいただきました。午後も政府に対しての質問に当たりますので、参考にさせていただきたいと思います。
まず、今、小沼先生からも触れた部分があると思いますけれども、私自身、研究者でありましたので、今回の統括庁ができるという視点において、まさに政府と研究者、この関係が物すごく重要になるんだろうなと強く思っております。
そこで、齋藤参考人に伺いたいと思いますけれども、研究者の方々がこの行政に対して発言をしていくということ、余り、慣れている人と慣れていない人がかなりいます。なので、統括庁自体が人選をすることについても、入口の課題があると思います。ですので、研究者自体がどういうふうな関係性にあるかということ、これを整理するということがとても重要だと思います。
といいますのも、実は同じ現象に関しても研究者っていろんな見方しますから、研究者の中での意見のそごというのがあるんです。同じ現象を見ても判断が違ったときに、片方だけ採用すると片方のバイアスが掛かった中での行政の政策判断が生まれると。こういうことって、感染症は命に関わりますので、これはいけないことだなと思います。
ですので、これをどういうふうに整理して意見の広範性を取り込んでいくかというのが統括庁との関係性として重要だと思いますけれども、この辺についての御意見を頂戴できればと思います。
参考人(齋藤智也君)
ありがとうございます。
まさにそこの科学的知見のインプットという点に関して、非常に今回も問題意識があったところです。特に序盤のところは、知見が非常に限られる中で、なかなか、いろいろな分析を取り寄せてそれをじっくり眺めてというわけにもいかない状況もあったかなと思います。一方で、だんだんとフェーズが進んでいきますと、だんだん、幾つかのシナリオに基づいて、それぞれの正しさを吟味しながら判断していくプロセスというのも必要になってきたと、そしてそれができるようになってきたというふうに思っております。
ここで、やはり特に初期の迅速にリスクを評価してすぐに対策に移るというフェーズは、かなり政策側と科学者側が近い関係の中でそれを一緒にやっていかなきゃいけないフェーズがある。そのプロセスには非常に慣れた人たちというのが今後育っていく必要があると思っています。一方で、その科学的根拠というのを公平に吟味をしながら政策をつくっていく、そういうプロセスというのもつくっていく必要が両方あるように思っております。
三浦信祐君
そうすると、統括庁の側で研究者を見抜いていく、またその距離感を縮めてとなると、研究者ということも大事だと思うんですけれども、学術団体との関係ってこれ極めて重要だと思いますけれども、齋藤参考人に重ねて御意見をいただきたいと思います。
参考人(齋藤智也君)
このいわゆる専門家の集まる組織として、分科会とか、例えば厚労省であれば部会とか、いろいろ形があるわけなんですけれども、いわゆる科学的な根拠を公平に聞く部分といわゆるステークホルダーの意見を聞く部分と両方の要素があるのではないかなと思っています。
常にそこの公平性というのは今後多分考えていかなければいけない部分で、特にパンデミックのような非常に影響が大きいものについては、例えばオープンな公募というようなものも取り入れていくとか、そういうやり方もあるのではないかなと思っています。
三浦信祐君
改めて、今の議論も含めて二木参考人に、この研究者と統括庁との関係性、どうしていった方がいいのかということを知見として御紹介いただければと思います。
参考人(二木芳人君)
私もその辺は大変気にしております。ですから、やはり統括庁がどうしても政治的判断が優先されるのではないかなという懸念を持っております。ですから、今度併せて国立健康危機管理研究機構というのができて、いわゆる日本版CDC的なものができますので、そういうところでまずその科学的な知見を、統一見解を出して、それをそういうふうな統括庁で、何といいましょうかね、そしゃくしていくというような形がいいんじゃないかなというふうに思っておりますね。
今の段階では、なかなか、あれやこれやと多方面からいろんな情報あるいは知見が寄せられまして、それをどういうふうに取り上げて、どう用いていくかということにかなり混乱があるような部分もあります。ですから、その辺を一つ前で一本化して、それで統括庁に結び付けていくというやり方がいいと思いますが、ただ、この新しくできる研究機構もこれから中身がどういうふうなものになっていくか。それぞれの、今の病院とそれから研究所ですね、国立感染研とそれから国立国際医療研究センター、この二つにもやはりいろいろと課題もあるように思いますので、この辺りを二つ結び付ける機会を持って、その辺りがきちんとできるようになっていけばいいんじゃないかなと思っております。
三浦信祐君
まさに今、二木先生がおっしゃっていただいた日本版のCDCの位置付けというのは極めて私は重要だと思いますし、今回の法律の中でのこのCDCをつくっていこうということは、まさにこれから生み出していくところで極めて私たちもよく応援をしていかなければいけないと思いますし、研究者の皆さん、また国家機関も含めて強力にこれは育てていくという視点で臨んでいくことが重要だと思います。
その上で、齋藤参考人と二木参考人に伺わせていただきたいと思いますけど、そういう視点におきますと、実はCDCという単語を使った以上、米国のCDCがモデルになるのかなと思いますけれども、他方で人口規模と能力、また場合によっては軍との関係という部分も全くもって日本とは違う体制であります。これからの議論を深めていくためには、この日本版のCDCというのはどの方向性を目指していくということが少しメルクマール的に明示されていかないと、CDCという言葉だけが先行してはいけないなというのは強く私も思っております。
ですので、日本の独自性というところを考えていくという観点なのか、本当に米国バージョンを狙っていくのか、この辺について、齋藤参考人には研究者という位置付けでの視点、そして二木先生にはこれが社会的理解という視点で少し知見をいただければと思います。
委員長(古賀友一郎君)
では、お二方から。
まず、齋藤参考人。
参考人(齋藤智也君)
御質問ありがとうございます。
今後、その日本版CDCと呼ばれている組織の進む方向性についてなんですけれども、そのCDCといいますか、この感染症対策を扱う、まあちょっと技術的知見も多く扱う組織をどのような形で行政との間に位置付けていくか。これは世界各国でいろいろな議論が行われて、そして、まさに改正を行っている最中という中で、必ずしも日本が、アメリカともいろいろ統治機構等も違う中で、同じような形、全く同じような形を取る必要はないと思っております。
ただ、先ほどおっしゃっていただいたように、やはり今回一番重要だったのは、その科学的知見をしっかりと病原体の話から、あるいは疫学の話から、あるいは臨床から、ベッドサイドから得られる情報から、これをきちんと統合して政策に必要な部分にインプットしていくという役割はまずしっかりやっていくところなのだろうというふうに思っています。
委員長(古賀友一郎君)
次に、二木参考人。
参考人(二木芳人君)
難しい問題ですけれども、やはりアメリカのCDCというのはかなり幅広い機能とか権限を持っておりまして、特に今の軍との関連というのは非常に強いものもありますし、昨今の情勢をいろいろ考えてみますと、いわゆるバイオテロですとかそういうふうな生物兵器などの問題もありますので、当然、CDCがそこに研究施設として関与することはアメリカの場合は当然だと思います。
我が国に関しましても、将来的には分かりません。もうそういうこともこういうところでしなければいけない事態も来るかもしれませんが、当座の間は、いわゆるこのような、今回のような感染症パンデミックなり、あるいは様々な感染症の問題があります。それから、その周辺の、いわゆるミリタリーな部分を除いたところでの研究活動というのも考えていただいてまず始めていただくことが社会的には恐らく受け入れられやすいだろうし、それが新しい方向じゃないかなとは思いますが、将来のことはなかなか難しいように思います。
三浦信祐君
しっかりと生んで、それをいろいろ知見をためていく、それをまたブラッシュアップする若しくはアジャイル化を図れるということは大変重要だということを教えていただきましたので、この後の議論に行かせていただきたいと思います。
話題を変えますけれども、訓練の在り方、これはとても重要だというのはもう委員の先生方々も全て共有するところだと思います。他方で、行政が訓練をしようとすると、えてして予算が絡みますので、成功する訓練、実効性のことにだけこだわり過ぎるということというのがどうしても傾向性としてはあると思います。
一方で、私、研究やっている中で、学生さんとの対話の中で一番大事にしていたことは失敗の部分でありました。失敗したら失敗する理由がありますので、その失敗の理由を大事にしようと。成功したことが成功だって理解できるかどうかというのは、失敗の知見の重ねだというふうに思います。なので、失敗にそんなにたくさんケースをつくるということは難しいとしても、設定をたくさん持てるという自由度というのがむしろ統括庁の平時の役割ではないかなと思いますけれども、齋藤参考人にこの辺の知見、また御意見を伺いたいと思います。
参考人(齋藤智也君)
御質問ありがとうございます。
まさに先ほど訓練と演習という言葉をあえて使い分けるという話をしましたが、訓練というと、どうも皆様の期待値的に成功させなければいけないという思いが強くなってしまうように思います。そこで、あえて演習という言葉で、これはまだトライ・アンド・エラーなんだと、いっぱい失敗して、そして知見を得ていくんだという名前でやった方が、失敗というのをもっと皆さんにも受け入れていただいて、そしてそこから学んでいくんだというところを御理解いただけるんじゃないかなというふうに思っています。
三浦信祐君
そうすると、演習のところに専門家の経験がある先生がいるということも重要だと思いますが、一方で、若手の海外経験をたくさんされたり、加えてそういういろんな設定能力がある方、これを置けるかどうかというのがポイントだというふうに思います。
そういう視点においては、統括庁という役割、またCDCの中でも同じような役割が生まれると思いますけど、そういう人材というのが日本でこれから登用して育てるということが重要だと思いますけれども、その方向性というのは、今回の法改正も含めて、今、日本にはそういう知見があるというふうな理解をしてよろしいかどうか、齋藤参考人に伺いたいと思います。
参考人(齋藤智也君)
その知見ですが、いろいろとみんながこの危機を何度も経験できるわけではないので、やはり過去の歴史的なものからどんどん学んでいかなければいけないんだろうと思っています。そこは、私のセンターの中でも教育プログラムは作っておりますし、いろいろと過去の事例の本を並べて、みんなでこれをよく読むようにということは常日頃言っているところです。
そうやって過去から学んでいく体系というのをつくっていくと、そのシナリオ設定とかそういうことをできる人材というのも増えていくのかなと思っております。
三浦信祐君
次に、その演習の位置付けにおいて、過去のことを学ぶという今大事なことを教えていただきましたが、一方で、我が国の今後のスパンを考えると、感染症って、おおよそ近年では十年に一回ぐらい何らかのものが出てくると、そういう設定というのはもうイメージしやすいと思います。
ただ、今後、日本の人口構成を見ますと、二〇四〇年問題というのが決して遠くない未来にやってまいります。この間に二回、仮に設定をされたとしたときに、井上参考人も大変重要なお話をいただきました、今日ちょっと介護のことの深掘りはできませんけれども。今、医療提供体制が現状の段階で考えても足りない、介護、障害福祉の現場においてもただでさえ足りない、今度は生産人口が減り、労働生産のみならず現場で仕事をしてくださる方ががくっと減っていくということがある中で、どういう設定をしていかなければいけないかという実は国家としての今後の想定が、感染症というだけで目線で見てしまうと、大変前提が崩れてしまうということも入れ込まなければいけないと思います。
そうすると、これ、実は統計学とかも含めて相当研究には入れ込んでいかなければいけないというと同時に、どうしても今を生きる国民の皆さんと共有しなきゃいけないのは、その前提というのは、今はいいかもしれないけれども、そうではないんですよというところで、備えを国民の皆さん自体も設定していかなきゃいけないということを実は今の段から発信ができるということはとても重要なのではないかなと思いますけど、この国民的理解を醸成していくという、設定が変わっていくという部分に関して、二木参考人、今後どういうふうに政治の側も行政の側も発信を、国民理解を増やすという部分ではやっていかなければいけないかということを、多くのこれまでの知見を踏まえて教えていただきたいと思います。
参考人(二木芳人君)
もう大変大きな命題で、私が答えられるか大いに疑問ですけれども、確かに今御指摘があったように、私は、二〇四〇年とか五〇年とかという長いスパンよりも、もっと早いタイミングでその辺のことをしっかり考えなきゃいけない時代が来るんじゃないかなというふうに思っております。
そういう中で、例えば最近ですと、事業の方では健康経営なんて考え方も浸透してまいりまして、そういうところに講演に行ったりさせていただくことがあるんですけれども、できるだけ社員が、社員といいますか、何といいますかね、社員の方々でよろしいでしょうかね、が健康でそして長く働けるような体制をつくることが会社のためになるというような考え方、これがやはり、できるだけ高齢者の方々が健康で少しでも長く働けるような体制を取っていくということですよね。
それからもう一つは、最近になって議論になっているところの外国の技能実習生の方々ですか、この方々の待遇とか在り方を変えようという議論も始まっています。私は、ある程度海外からそういう方々が入ってきていただいて支えていただくという部分も必要だろうというふうに思いますが、いずれにしろ、なかなか今問題になっているところの少子化対策というのもすぐには効果は生まないでしょうから、感染症のみならず健康というものを国民の全ての方がそれぞれの立場で捉えていただいて、あわせて、昨今はやりのSDGsみたいなものと同時に、なぜそういうふうなことが起こってこのような感染症パンデミックが繰り返し起こるかということまで含めて考えていただくということをより徹底していくというしかないんじゃないかなというふうに思っております。
三浦信祐君
大変勉強になりました。ありがとうございました。